本研究の目的は,教師教育における,メンティを支援するためのメンタリングの方法論と,メンタリングにおける省察を深めるための効果的な媒体を提案することである。そのために文献調査と予備調査を実施し,その結果を手がかりに,省察の媒体となる授業計画書を開発し,その活用方法を示した。 本研究の成果は次の2点である。第1に,開発的・実践的研究における授業計画書の新たな活用方法を提案した点である。従来,授業計画書は授業改善とセットで考えられてきたが,教師教育とセットで活用するという視点の転換を図った。具体的には,メンティが置かれた異なる状況に対応した授業計画書「中世の枡」と「明治の改元」を開発し,それらを活用したメンタリングの過程を例示した。
第2に,学校を基盤としたメンタリングは,メンターとなる先輩教師の専門性開発にもなることを示唆した点である。メンタリングにおいて省察を深めるための媒体となる授業計画書の開発とその活用方法を考えることによって,メンター自身もこれまでの自分の授業を振り返る機会となる。
成果としてあげた上記2点は, これまで自覚的に行われてこなかったことが大きな課題であった。若手教師が増加する現在, 教師教育の現場では「教える/教えられる」という片方向ではなく,「教 え合う/学び合う」という双方向性がめざされなければならない。とりわけ,変わらない,変わらないと言われ続けてきた日本史教育においては,「何のために生徒に日本史を教えるのか」という根源的な問いについての先輩と後輩の教師同士の対話から,その改革の第一歩が始まる。
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