1986年から1988年にかけ,長野県下の飯綱高原と軽井沢町発地において,オオジシギの日周活動と社会構造に関する調査を行った。調査は,鳴き声や飛翔について野外観察するとともに,捕獲して発信器をつけることによる追跡調査,アクトグラムによる行動解析を行った。オオジシギは,調査地には4月前半に渡来し,7月末頃まで留まった。計7個体を捕獲し発信器をつけて調査したが,多くは少なくとも1ヶ月近く定住していた。音声は4種類区別された。誇示飛翔などの音声活動は,日の出前と日没直後に活発で,日中や夜間にも活動のピークがみられる日もあった。朝夕の誇示飛翔は,個体ごと限られた地域内を旋回して行われ,互いに排他的で重なりはみられなかった。誇示飛翔域の形成と分布は,中心から周辺へといった同心円的な構造が認められた。日中の誇示飛翔は,排他性が弱く,隣接個体どうしが集団で広い地域を飛びまわって行われた。アクトグラムによる行動解析から,活動は24時間どの時間帯にもみられたが,朝夕に活動のピークがあり,夜間より日中の方が活動はさかんであった。採食を主とした地上での行動圏は,朝夕の誇示飛翔域よりも広く,個体ごとの重複がみられ,排他的ではなかった。巣は,2巣ともに湿原のふちで発見され,誇示飛翔や採食行動が行われた地域の外側であった。抱卵は,1個体のみによって行われ,その個体は誇示飛翔や鳴くことはしなかった。以上の点から,誇示飛翔を行う方が雄,これらを行わず抱卵する方が雌と判断された。オオジシギの繁殖形態は,雄が子育てに関係した行動をいっさいせず,特定地域に集合し,誇示飛翔を通し空中にアリーナを形成する,レックに近い形態である可能性が論じられた。
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