【はじめに、目的】
我が国では,高齢化が急速に進み,2025 年には高齢者人口も 3,500 万人に達すると見込まれている.高齢になると転倒のリスクは高まり,高齢者の転倒は,骨折を始め,転倒恐怖心や閉じこもり,身体活動量の低下など様々な弊害をもたらし, 高齢者の生活を脅かしQOLを低下させると言われている.また活動性の低下は運動機能の低下に繋がり,生活の狭小化を招き,転倒の要因因子の一つでもある.日本理学療法士協会により高齢者の活動的な地域生活を的確に評価するツールとしてElderly Status Assessment Set(以下E-SAS)がある.これは,「高齢者の活動的な地域生活の営みを支援するアセスメントセット」として,開発されたものである.このE-sasと運動機能との関わりについての報告は少ない。そこで,本研究として,地域在住高齢者の運動機能と生活空間や活動能力との関係性を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,当院実施の健康教室に参加された地域在住高齢者で,同意を得られた 65 歳以上の者27名(年齢73.4±5.2歳)とした.まずアンケート式のE-SASを自己記入し,その後,運動機能評価を測定した.測定内容としては,握力,膝伸展筋力,指床間距離,2ステップテスト,Timed Up and Go(以下TUG)を実施した.その後それぞれの関係を検証する為,SPSSを使用し,各項目をpearsonの積率相関係数を用いて検討した.その際,有意水準は5%未満とした.
【結果】
E-SASの各項目と運動機能の中では,転ばない自信と膝伸展筋力(r=0.437 p<0.05)2ステップ(r=0.391 p<0.05)において相関が見られた.また休まず歩ける距離と2ステップ(r=0.418 p<0.05)間においても相関があった.
【結論】
本研究は,地域在住高齢者の運動機能と生活空間や活動能力との関係を明らかにした.その結果,膝伸展筋力と2ステップは,転ばない自信と休まず歩ける距離に関与していることが示唆された.休まず歩ける距離は、高齢者の基礎体力のことを示しており、運動機能との相関が出たことから同じ傾向であると言えた。また運動機能は、転倒に対しての自己効力感と関係している。転倒予防において,身体機能の向上を図ることで日常生活での活動性が維持されると認識されやすいが、転倒に対しての自己効力感を高めることで運動機能の維持に繋がると考える。運動機能面のアプローチのみならず,高齢者が生活している環境や活動範囲などさまざまな要因を考慮しながら、生活環境の動作指導を行うことで転倒予防や健康増進に対する取り組みを行う必要性が改めて示唆された.予防を行うことで自信がつき,活動性の維持が図れるのではないかと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に従って,参加者には口頭と書面にて説明し,同意を得て実施した.
抄録全体を表示