近年の日本では,少子高齢化や人口減少,国と地方の財政危機といった諸課題を抱えるなかで,社会の様々なシステムについて再構築が模索されている.本稿では,行財政の地域的枠組みをめぐる再検討をその一例として位置づけ,早くから具体化されてきた介護保険の広域運営に関して,平成の大合併期を経て,どのような影響がみられたのかを分析した.保険財政を一体化した広域保険者の再編過程をみると,関係する市町村の合併を経て消滅に至った保険者地域よりも,大合併期の後も広域保険者として存続した地域の数が上回っていた.また,構成市町村単位でみた介護保険サービスの給付と負担のバランスに関する公平性に着目した指標について,大合併期の前後でいかなる変化がみられたのかを検討したところ,広域保険者に参加していることで賦課される保険料水準が単独運営の場合の水準に比較的近づいた構成自治体が,全体としては多いことが確認された.ただ,個別の構成自治体でみると,単独運営の場合と大きく乖離する市町村もなお散見され,大合併期前よりも構成市町村間の格差が拡大した広域保険者もみられた.合併を経て規模の拡大を実現した後も,なお広域保険者としての枠組みを維持した地域が多い点からは行財政に関わる連携へのニーズがうかがわれ,今後も基礎自治体による広域連携のあり方に一層注目する必要があると言えよう.
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