現在,日本の医薬品卸売業界は,外には大きな制度的変更と環境変化,内には価格を中心とした競争の激化と業界再編成と,スケールの大きな戦略的危機状況に直面している。
そこで前半においては,卸企業をとり囲む広い業界枠組を設定して,関係者の戦略・行動スタンスの分析を行った。これらの分析は価値創造連鎖の中間に位置する卸にとって,どのような戦略が付加価値をより高くするかの検討をするのに際し有用であると思われる。また卸売業界内部での競争をどう把握するべきかを制度的枠組のなかで分析を行った。卸ミクロの視点と業界全体のマクロの視点との統合という課題は変わらず残ることを指摘している。
また,前半から後半にかけて,これまでの卸の市場戦略の定石を過去の種々の分析から整理している。しかし, それらは“ 旧ルール” の下であり, 現在の新ルールにおいてはある程度の変更が要求されよう。さらに,卸各社にとって重要なのは,メーカーその他の戦略スタンスの推移の下において,従来通用した業界内仮説を維持することのリスクであり,それについても指摘している。
業界再編成や過度(?)の価格競争が問題になれば,よく話題になるのが過去の九州地区の再編成のプロセスである。ここでは九州地区の再編成が成功した条件について検討し,そのことが今後も妥当するかどうかについて若干の分析を加えている。九州地区の成果をストレートに適用するのは少し無理があるものの,日本全体の卸売業界について,かつての九州地区での再編成プロセスを検討する価値は十分あると思われる。
最後に,現在の医薬品卸売業にとっての大きな課題は,医薬品卸売というドメインだけに限定して戦略の検討をするのが適切かという提案をしたい。これまで境界線がはっきりと存在するなかで経営を行ってきた卸各社にとって,現在は自由度の多くなった,したがって自己責任も増大したなかでの経営のありかたが問われているといってよいであろう。
抄録全体を表示