本研究の目的は,咬合面の初期う蝕の診断において以下の3方法を評価し比較することである。肉眼的にう窩を認めない抜去歯牙を選択し,視診,Electrical Caries Monitor (ECM),う蝕検知液を用いて診断した。42本の抜去歯の161小窩を視診,ECMについては3名で診断し,う蝕検知液については1名の診査者が行った。各診査法の診断基準は,視診ではO〜4,ECMでは機器で表示されるO〜9のレンジおよび電気抵抗値を採用し,う蝕検知液ではO〜2のスコアを作成した。確定診断は組織学的所見(O〜4のスコアで表される)に基づいた。対象161部位のうち85部位が,組織学的所見でスコア2以上(スコア2:脱灰がエナメル質の50%以上に及ぶ)と診断された。同様に,視診のスコア2以上(スコア2:歯面乾燥なしで肉眼的に白班や変色が明瞭である)は82部位,ECMではレンジ3以上(レンジ3:電気抵抗値6.00MΩ以下,エナメル-象牙境までのう蝕)が96部位,う蝕検知液では被染部位が96部位であった。組織学的診断におけるスコア2以上を検出する場合,ECMが最も高い敏感度(85%)を示し,視診(67%),う蝕検知液(63%)が続いた。さらに,ROC曲線(Receiver-Operating-Characteristic curve)によって下方に囲まれる面積は,視診,ECM(電気抵抗値を採用),う蝕検知液それぞれに0.73, 0.89, 0.61でECMが最大であった。また,診断の再現性については,検査者内,検査者間のカッパ値が,ECMでは0.64〜0.80,0.75〜0.82であり,視診では0.53〜0.82, 0.29〜0.70であった。ECMは,咬合面の初期う蝕に対する診断方法として,視診,う蝕検知液に比べ,正確性,再現性ともに優れていると結論できる。
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