万葉集及び勅撰和歌集において松が詠まれた歌からその生育立地の推定を行い,年代毎の変遷を明らかにした。計 22集の和歌集には 1,493歌で松が詠まれており,内 1,147歌(77 %) で生育立地の特定が可能であった。生育立地は臨海部が 22~35 %と変動しつつも概ね一定の割合を占めており,中でも海浜のクロマツ林を詠んだものが多かった。本格的な海浜域での造林が始まる以前より,クロマツ林が広く存在し,その植生景観に価値が置かれてきたことが示された。内陸部は年代が下るにつれて割合が増加し,1200年代以降は浜以上の割合で山の松が詠まれるようになった。これは山に関連する用語の種類の多様化,「名もなき山」や「聴覚としての山の松」の嗜好の広がりによるものと考えられた。
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