本研究では「音楽取調掛時代文書綴」, 明治期の雑誌の言論, 東京音楽学校関係者による当時の回想, 『東京音樂學校一覽』中の関係史料から, 以下の3点を新たに指摘した。
第一に, 音楽取調掛時代の明治16年~18年の時間割に「箏」とは別に「專門 (樂器) 箏」の授業が含まれており, 明治17年の試験科目「俗箏」, 明治18年の試験科目「專門 箏」の試験内容として, 伝統的な箏曲の曲目が記載されていると指摘した。そして, 主にそれらの史料から, 音楽取調掛では, 「專門樂器」の「箏」という科目において伝統音楽の修得が行われていたのではないかとの可能性を示した。第二に, 音楽取調掛時代には「箏曲科の人」のための楽譜と, 教員のための小学唱歌用の伴奏譜があったこと, それらが実際に使われていた可能性について言及した。第三に, 『東京音樂學校一覽』のカリキュラムから, 唱歌の伴奏楽器としての箏の教習が, 明治33年まで, 約20年間にわたり続けられていた可能性を指摘した。
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