ヨトウガの幼虫を7種の植物,アカザ,キャベツ,タイナ,ハクサイ,ハツカダイコン,ホウレンソウ,およびバレイショの葉で,容器あたり1頭と10頭との2密度区を設けて,25°C,常暗の恒温器内で飼育し,形質変異の発現に対する密度の働きが食草によってどのように左右されるかをみた。幼虫期とよう期との調査では次の諸点が明らかになった。
1) 幼虫期の発育速度に対する集合の影響は食草によって左右され,集合が発育を促進するように働く場合(アカザ,キャベツ,タイナ,ハクサイ,ハツカダイコン,ホウレンソウ)と,逆に遅延するように働く場合(バレイショ)とがある。
2) 幼虫体色はどの食草でも集合により暗色化するが,その程度は食草によっていくぶん異なる。またそのような集合の影響は発育に長時間を要するような食草の場合におけるほど顕著のようである。
3) 幼虫期の死亡率はどの食草でも集合によって高くなるが,単独の場合に対する相対的な死亡率は,多くの個体を死亡させるような食草におけるほど低い。よう化個体の性比からみれば,幼虫期の集合による死亡は雄よりも雌のほうが多いようである。さなぎ期間に死亡する個体はほとんどない。
4) さなぎ体重は幼虫期の食草のいかんにかかわらず集合によって軽くなるが,その程度は食草によって一様ではない。概して,幼虫期の発育所要日数が多いか,もしくは集合区の発育をかえって遅延させるような食草では,そうでない食草でよりも集合によるさなぎ体重軽減の度が弱いようである。
5) さなぎの休眠率は幼虫期の食草の種類によってかなり左右され,休眠さなぎを全く生じない場合(アカザ)から,40%前後生ずる場合(ハツカダイコン,ホウレンソウ)まである。幼虫期密度との関係についてはあまりはっきりしなかったが,いちおう,それは食草によって一様ではなく,集合により休眠率が高くなる場合と逆に低くなる場合とがあるようにみられた。
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