軍拡競争の概念はメイナードスミスやパーカーによるボディサイズ進化のモデルを出発点とし、
共進化
の理論に重要な影響を与えたが、実証的な研究は遅れてきた。KraaijeveldやGodfrayらはショウジョウバエの寄生蜂への抵抗性に遺伝的変異と地理的変異があることを見いだし、飼育実験によって寄生蜂存在下で抵抗性は数世代のうちに急上昇する事を示し、さらに抵抗性のコストの検出にも成功した。これを受けて、Sasaki & Godfray (1999)は寄主抵抗性と寄生蜂病原性(抵抗性を打ち破る対抗形質)の
共進化
を数理モデル化し、抵抗性と病原性が増大と急落を繰り返す
共進化
サイクルが広いパラメータ範囲で見られること、また寄主抵抗性のコストがある閾値より大きいと、寄主が抵抗性を完全に捨てた状態が
共進化
的安定状態になることなどを示した。しかし寄生蜂の病原性の遺伝的変異の検出が難しいため、
共進化
実験や自然集団での検証は行われてこなかった。 ところが最近の東樹と曽田のツバキ果皮とツバキシギゾウムシ口吻の軍拡競走に関する野外研究によると、1) 両形質に高い種内多型があり、2) ゾウムシの口吻長とツバキの果皮厚とが比例する直線上に乗る集団群(
共進化
によるエスカレーション途上の集団群?)がある一方で、3) 果皮厚が明らかに口吻長より小さいゾウムシ優位の集団群(ツバキが抵抗をあきらめた平衡状態?)も存在する等の注目すべき結果を得た。本講演では、これらの発見を寄主の抵抗形質と寄生者の対抗形質の軍拡
共進化
理論から検討し、量的形質の
共進化
の理論と実証研究の統合を試みる。また進化動態において形質の遺伝的構造や、突然変異率・変異幅に関する仮定が
共進化
サイクル等にどう影響するか、Adaptive dynamicsとの関連、分集団間の
共進化
動態の同調・非同調や、地理的クラインの形成についても詳細に検討する。
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