「ぶんぶくちゃがま」といえば、真っ先に思い浮かべるのは、頭と手足を出した茶釜が綱渡りをする場面ではないだろうか。数多く存在する昔話の中でも、タイトルを聞いて特定の場面を想起する作品はそれほど多くはない。狸が化けた茶釜が、見世物小屋で綱渡りを披露する。これはいったいいつ頃から語られるようになったのだろうか。筆者らはこれまで昔話の再話や受容のありようを明らかにすることを目的として、「ぶんぶくちゃがま」の物語構造の変遷について考察してきた。本論では「ぶんぶくちゃがま」における綱渡りのイメージがどのように形作られてきたかについて、見世物の描写に着目することによって明らかにした。「ぶんぶくちゃがま」における見世物の描かれ方は、明治40年代、昭和初期といくつかの転換点を経ながらも、明治初期の豆本で表現された綱渡りのイメージを現在まで色濃く引き継いでいると言える。
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