公共事業の意思決定過程における近年のトラブルは,早い段階に情報が公開されず,住民は計画が進んでいることを十分に知らされていないことが大きな要因であったといわれる。諸外国の環境アセスメントの早期段階には,代替案の検討等を行うスコーピングと呼ばれる最も住民参加の必要なプロセスがある。しかし,日本ではスコーピングの位置づけが不明確であり,住民参加が保証されるものとなっていない。合意形成を十分に行うためには,事業段階のアセスでは不十分であり,その上位計画における情報の開示を促進させ,戦略的環境アセスメント(SEA)の導入も視野に入れる必要がある。日本では,政策方針の検討あるいは公共事業等の計画を決定する場合,審議会(国家行政組織法第8条に基づき設置されている合議制の機関)で合議する形式をとり,政策決定していくというプロセスを経ることとなっている。その答申内容いかんにより,計画がスタートする場合とストップする場合があり,計画を動かすかどうかは諮問者の意思決定による。その審議内容は,諸外国のアセス手続きで位置づけられているスコーピングと一部重なる。審議会は,傍聴が不可能な場合も少なくないが,吉野川可動堰建設を検討する審議会では,市民やマスメディアの強い要求によって,途中から段階的に審議の市民の傍聴が許された。会議場だけでなく,別室におけるテレビモニターでの傍聴も可能とする方法で公開にした結果,少しずつ関心を持つ市民が増えていった。審議内容が公開され,建設省(現国土交通省)の可動堰建設の根拠となるデータを得た市民団体は,独自に専門家に依頼して水位計算を行い,審議会の中で発表し,その結果が審議会の議論に影響を与えるに至った。この現象は審議の公開の意義を示した一例といえ,今後の公共事業をめぐる合意形成のあり方におけるモデルになると考えられる。審議会の公開は戦略的環境アセスメントの導入につながる第一段階である。
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