読本というジャンルは、中国の白話小説から、主題や思想性、文体、さらには小説そのもののあり方など多くを学ぶことによって成立した。実際、宝暦から寛政にかけて上方で板行された、短編を中心とするいわゆる前期読本群には、短編白話小説の翻案が多く含まれている。ただし、白話小説はそもそも講談などの話芸を元にしたものであり、とりわけ短編集である「三言二拍」が扱う素材は市井の雑事が多く、まさしく世話種であるとも言える。従来、前期読本は白話小説を高度に翻案した都賀庭鐘や上田秋成の功績をもって捉えられてきたが、彼ら以外の作者たちはむしろ白話小説本来の世話性を比較的素直に受容しているように思われる。本稿では具体的に、前期読本の諸作に夫婦もしくは男女が再会する話が繰り返し描かれていることを指摘しつつ、さらには、遊女の侠気を描いた作品の系譜をもたどりながら、この時期の読本に描かれた〈世話〉の問題を考察してみた。
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