敗血症のような重症全身感染, あるいは髄膜炎および尿路感染の感染局所で, 炎症性サイトカインは感染防御に深く関係している。精巣上体炎は, 精巣上体の腫脹をきたす生殖
器局
所感染ではあるが, 高熱を呈することも多く, 何らかの生体防御機構の関与が考えられる。そこでラット精巣上体炎モデルおよび培養上皮細胞を用い, 生殖器感染時における局所でのinterleukin-6 (IL-6) をはじめとする炎症性サイトカインの発現とその動態に関する検討を行った。まずラット精管より
Escherichia coliを逆行性に注入し精巣上体炎を作成し, 感染前および感染後6, 12, 24, 48, 72時間後に精巣上体を無菌的に摘出した。その精巣上体からtotal RNAを抽出した後, Northern blotting法にてIL-6mRNAの発現を, ならびにRT-PCR法にて各種炎症性サイトカインの発現を検討した。さらに, 精巣上体の経時的な病理組織学的変化と免疫組織染色法によるIL-6の局在を検討した。また, ラット精巣上体の上皮細胞を分離培養し, lipopolysaccharide (LPS) で刺激し, 上皮細胞における炎症性サイトカインmRNAの発現を検討した。結果, 精巣上体炎局所においてもIL-6mRNAが発現しており, またその発現は感染後6時間でピークに達し, 以後時間の経過とともに減少していることが確認された。さらに他の炎症性サイトカイン (IL-1β, TNF-α) mRNAも精巣上体炎局所で発現していた。病理組織学的検討では, 感染後6時間では炎症細胞の浸潤を認めなかったが, 72時間後に炎症細胞の著明な浸潤を認めた。免疫組織染色による検討では, 精巣上体の上皮細胞において, 感染後6時間でもっとも強くIL-6が発現していることが確認された。培養細胞を用いた検討では, LPS刺激後6時間で炎症性サイトカインmRNAの発現が確認された。以上より, 精巣上体炎においても, 感染局所で生体防御機構としてサイトカイン産生系が賦括されていることが明らかになった。また, 上皮細胞はサイトカイン産生細胞として従来考えられていた以上に重要な役割を担っていることが示唆された。
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