日本の人口ピラミッドの最も突出している「
団塊の世代
」が, 2015年にはすべて65歳以上の高齢者となり, 2025年には75歳以上の占める割合が17.8%に達すると推計されている. 頭頸部癌, 特に口腔・咽喉頭癌は, 喫煙飲酒習慣の生活習慣病的側面が強いため, 以前から高齢者の占める割合は高率であった. 当センターのデータでは, 1985~2004年頃までの20年間は65歳以上, 75歳以上はともにほぼ横ばいであったが, 2005年以降ともに増加傾向が見られ, 2015年以降急増している.
非高齢者におけるがん治療の主たる目的は「がんの根治=長期生存」であるが, 高齢者ではそれよりも「最期まで自立した生活」を希望される場合が少なくない. しかしながら, 75歳でも平均余命は12年以上あり「最期」は必ずしも近い将来とは限らない. 国立がん研究センターがん情報サービスから公表されている「年齢・全身状態別余命データ」では, 高齢者では同じ年齢層でも平均余命の差の大きいことが示されている. 口腔・咽喉頭癌では局所制御ができなければ経口摂取が不可能となり, 自立した日常生活が困難となる.「QOL の維持のためには局所制御が必要であり, 根治性と QOL は表裏一体となることが多い」点が, 気道・食道に直接影響のある頭頸部癌治療において考慮すべき重要な点である.
放射線治療を主体とする保存的治療では, 治療中・治療後の嚥下障害による栄養管理や誤嚥性肺炎の予防のための対応が不可欠であるが, 多職種による十分な介入を行うことで「元気」な高齢者に対しては非高齢者と同様の治療が可能である. しかしながら, 高齢者では保存的治療においても手術同様, 治療に伴うリスクが非高齢者より大きくなる. G8 に代表される GA スクリーニングツール等を用いて評価を行ったうえで治療の目的を明確にし,「治療により得られると見込まれるもの」が「失う可能性のあるもの」より大きいか否かについて, 多面的に検討を行うことが望まれる.
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