デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はX連鎖性の遺伝形式をとり,ジストロフィン遺伝子の変異により,形質膜からジストロフィンタンパク質が欠損することで発症する希少難病である.DMDは出生男児の約5,000人に1人の割合で発症し,進行性の筋萎縮と筋力低下を特徴とする.近年,短縮型ジストロフィンの発現回復を目的としたエクソン・スキップ治療法やアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用した遺伝子治療法が開発されている.著者らは,同疾患を対象として,DMDモデル動物やヒト患者由来細胞を用いて,エクソン・スキップにより発現回復する短縮型ジストロフィンの機能評価,効果と安全性に関する非臨床PoCの取得を重ねた.こうした基盤研究成果をもとに,著者らは日本新薬株式会社と共同で,DMD患者の約8%を治療対象にできるエクソン53・スキップ薬「NS-065/NCNP-01(viltolarsen)」の開発を進め,同薬は2020年に日米で条件付き承認された.続けて,著者らはDMD患者の6%を治療できるエクソン44・スキップ薬「NS-089/NCNP-02(brogidirsen)」の医師主導第1/2相試験を進めており,本臨床試験では世界で初めて正常の15%以上のジストロフィンタンパク質の発現回復に成功し,運動機能への有効性を期待できる結果が得られた.Brogidirsen は,エクソン・スキップ薬として初めて,米国FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けたことは特記される.2023年には,AAVベクターにマイクロジストロフィンcDNAを搭載した世界初のDMD遺伝子治療薬「SRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)」が米国FDA により迅速承認された.本総説では,これらDMD治療法の最先端研究成果を概説する.
抄録全体を表示