1. 問題意識と研究目的
20世紀を通して急速に進んだ都市の近代化の流れは都市を大きく変容させた。新たな都市景観の誕生を受けてレルフ(1999)やムニョス(2003)は、その特異性を都市計画の移り変わりや技術革新、グローバル化を背景に説明している。
本研究では、近代以前に形成された都市空間の形態的特性が数多くの変化を累積しながら今日まで継承されている例として、スペイン、バルセロナ市のサンアンドレウ界隈を取り上げる。サンアンドレウは、バルセロナ旧市街の北約6㎞に位置し、旧市街を取り囲む近代拡張地区が建設された後も、歴史的界隈としてのまとまりを保っている。報告では、住民の生活に大きな役割を果たしてきた商業活動に焦点を当て、対象地区における都市空間の形態的特性と持続性がそこで展開される商業活動といかなる関係にあるのかを考察する。
2. 研究方法
本研究は2022年3月から7月にかけて上川が行った現地調査の結果をもとにしている。まず、地図資料の分析や現地での観察をもとに対象地の街路形成過程を整理し、形態的な面からの空間構造を明らかにする。特に対象地域の歴史的な中心軸となっているサンアンドレウ
大通り
の発達に焦点を当て、
大通り
に集積した商業活動の分析に繋げる。次に
大通り
の機能的な側面に関して、商業集積の分析を行う。調査ではおよそ1.5㎞にわたる通りに面した建物地上階の約250店舗全てについて、業種、営業年数、経営形態、不動産所有、従業員の居住地、顧客の主な居住エリア、商店街組合への参加の有無を聞き取りなどにより把握した。
3. 考察・結論
サンアンドレウでは古代ローマ街道を起源とする通りに沿って 街路村的な集落が形成される一方、その後背地の開発は遅れた。20世紀初めには
大通りに大規模な繊維工場が立地したことで建造環境の過密化を伴って大通り
一帯の商工業が発達し、職住が近接した住民生活の場として通りの機能的な中心性が強化された。
現在の
大通り
の建物は歴史的な遺産として保護政策の下で利用されているものも多いが、地上階の用途規制や商業活動の実態分析なども活発に行われ、制度面から商業活動を支えている。実際の利用に関して現地調査では、建物の地上階を分割利用したり、ほとんどの事業所が賃貸での入店であったりと既存の建物の所有と利用を分離して活用する仕組みが確認できた。また聞き取り調査では同じ通りの中で店舗移動を行ったとの回答が複数あった。これらの結果から、職住一体を前提として作られた建造環境が持つ特性を所有者・事業者が理解した上で、時代のニーズに合わせて対応する選択肢を持っていることが分かった。
サンアンドレウの歴史的な通りでの商業活動の緩やかな継続からは、都市空間の形態的持続性が人々の営みに時間的な持続性を与える要素として作用していることが読み取れる。つまり、形態と活動の相互の結びつきから界隈のまとまりともいえる時空間的な持続性が編み出されている。本事例は、現代における都市空間への働きかけの過程においては、空間と時間の一体的な理解とその持続性への柔軟な解釈が必要とされることを示唆している。
参考文献
エドワード・レルフ1999. 『都市景観の20世紀 モダンとポストモダンのトータルウォッチング』筑摩書房.
フランセスク・ムニョス2013.『俗都市化-ありふれた景観 グローバルな場所-』昭和堂.
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