デザイン解を見出すプロセスにおいて, アナリシス(analysis)は要素還元主義的な方法であり,その概念と方法は自然科学や工学の定礎として不動の地位にある. 一方,システムには要素還元主義では説明しきれない「何か」が存在することが18世紀には意識されており, 現在では創発(emergence)現象として科学的な研究の対象となっている. 創発は,既知の特性よりも高次かつ非自明の特性を形成することから, デザインプロセスへ適用可能な具体的方法への期待が高まっている. しかしその一方で, 非要素還元的であるという創発の特性は, それを要素から予測したり演繹する理論を否定する.つまり, 発生した現象をそれと認識することは容易でも, 意図的にそれを生成するスキームを定義することは困難であるという特徴をもつ. また, 創発概念はシステムのマクロな特徴を意味するものであり, 対象と視点に依存し, 様々なレベルの創発現象を考えることができる. これらの創発の特徴から, 議論を疑似科学へと落ち込ませないためには, 注意深い取り扱いが必要であると言える.本論文は創発にもとづくデザイン法を論じるが, このような背景から, 実体を重視し論考を展開する. 人工物とその構造シミュレーションというアナリシスの典型的な例をモデルとし, その上で, 提案する創発デザイン法をアナリシスの方法と比較して論じる.
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