本稿はモンゴル国において,文化遺産が地元住民にいかなるものとしてとらえられているかに着目し,今後の有効な文化遺産の保存活用方法を考察することを目的としている。
本調査は,モンゴル国のウブルハンガイ・アイマグ(県)にあるハラホリン・ソム(郡)で行った。
ハラホリソ・ソムは,2004年に世界文化遺産に登録された「オルホソ渓谷の文化的景観」の登録範囲に含まれ,ソム中心部にはモンゴル帝国時代の首都であったカラコルム都市遺跡と16世紀に建立されたチベット仏教寺院エルデネ・ゾー寺院がある。
地元住民を対象とした観察およびインタビューによる調査の結果,住民にとっての文化遺産は文化的価値と経済的価値との両方を有するものであることが明らかとなった。そして文化的価値としては公開を,経済的価値としては観光資源として活用していくことを期待している。しかしながら,現状では文化,経済ともに住民の求める還元が十分に行われていないことを指摘した。
この問題を解決するためには,地域主導の文化遺産保護体制を構築することが有効である。そのためには住民を組織し,景観や民俗文化財といったこれまで住民が保持してきた文化を見直し活用していくことを啓発する必要があり,その際に果たすべき行政,博物館,教育機関の役割についても考察を行った。また,今回の調査地となったハラホリン・ソムには日本の援助により博物館が建設されることが決定しており,この博物館の果たしうる役割の重要性についても言及した。
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