文化人類学研究
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研究論文
口承文芸において歴史はいかに喚起されているのか
――新疆ホボクサイル・トルグートの早口言葉「Qončaan qoyor kövün」を事例に――
チャスチャガン
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2019 年 20 巻 p. 83-103

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抄録

 本稿では、中国新疆ウイグル自治区ホボクサイル・モンゴル自治県で伝承されている早口言葉「Qončaan qoyor kövün」に関する解釈の分析を通じて、口承文芸において歴史がいかに喚起されているかを論じる。

 早口言葉というのは、本来発話しにくい言葉を通常より早く言い、上手な発話を競う言葉遊びである。その多くは音節が舌を動かしづらい順序に並んでおり、文章の意味は捉えにくい。本稿では、ホボクサイル・トルグートの早口言葉を扱う。その早口言葉は、トルグートが帝政ロシアの妨害を避けるために作り、子供たちに教え、言葉遊びのように見せかけてトルグートの間で拡散させたとされる。イジル河畔のトルグートは、子供たちの早口言葉を聞いて、そこに隠された移住のメッセージを読み解き、移住の準備を始めたと解釈されている。

 本稿では当早口言葉に関する2つの解釈事例を取り上げて、早口言葉が実際移住の暗号として使われていたか否かではなく、意味不明な言葉遊びの中からも帰還の歴史を掘り起こそうとするトルグートの歴史への想像力に着目する。意味不明な早口言葉において歴史を想像できるのは、ホボクサイル・トルグートにおける帰還の歴史に関する声による歴史伝達の体系がより充実しているためであるという結論を得た。

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© 2019 現代文化人類学会
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