近年,数多くの遺跡の発掘調査において種々の鉄遺物が出土している.従来からこれらの試料に含まれる主要元素に着目した考古学的議論は数多くあるが,微量元素となるとほとんどない.そのため本研究では,機器中性子放射化分析(INAA)を鉄遺物に適応する際の基礎的知見を得るために,鉄製錬及び鉄器に関係した鉄遺物を選び,分析試料の削り取り法,削り取り位置,エッチング法,又,検出元素の濃度範囲,分析精度及び妨害核反応などを検討した.更に,鉄遺物中での元素の分布並びに同種遺物間の含有元素の相関性についても検討を行った.その結果,鉄遺物中の38元素が数十%から数十ppbの濃度範囲で定量できた.鉄さい(滓)試料中の多くの元素は,ほぼ均一に分布し,又,異種鉄さい試料間でも濃度に差が見られなかった.鉄塊試料並びに鉄器試料では,金属鉄地相とさびとの間で元素によって濃度に大きな隔たりがあり,さびは埋蔵されていた環境に大きく影響されていることが分かった.そのためこれらの鉄遺物を分析する際,試料を削り取る位置の吟味が重要となってくる.
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