冷戦後の米国の対中国安全保障政策は、中国とは政治的に対立しながらも経済面で関係を強化しつつ変節を待つというのが基本であった。米国防総省は2000年以降、『中華人民共和国の軍事力に関する年次議会報告書』をほぼ毎年刊行して中国への警戒を強めたが、同報告書では05年版までは、中国の軍事力の拡大・性能の向上が予想を上回る速度で展開していることを明らかにしつつも、中国の脅威をことさら強調するものにはなっていなかった。それがラムズフェルド米国防長官が就任直後に記した中国に対する基本姿勢を貫いたものであることは、田澤(2022)の指摘したところである。
本論文では、ラムズフェルド国防長官の任期最終年の2006年に米国防総省が中国の脅威を「破壊的能力」と形容し、中国に対する「諌止」から「選択形成」へとする方向に転じた経緯について、就任以後の各種安全保障関連文書との比較によって明らかにしたものである。
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