1.はじめに連結性(connectivity)は,物質(水や堆積物)や有機体が自然の系のなかで空間的に定義された単位間を移動できる程度を表す(Wohl 2017).近年,地形学においても河川の縦断方向,横断方向,垂直方向の堆積物の連結性に関する議論が盛んにおこなわれている(Bracken et al. 2015, Kondolf et al. 2006).たとえば,Fryirs et al. (2007) は,河川ネットワークへの堆積物の移動を妨げる地形をバッファーとバリアーに区分している.堆積物の連結性を検討することは,地形学の重要な課題である,小さな空間スケールで実測された地形変化の速さと大きな空間スケールで推定されている地形変化の速さとの間にみられる不一致を調整する上でも重要である(Bracken et al. 2015).
本研究では,鳥取県中部に位置する天神川水系を対象として,天神川およびその主要な支流である
小鴨川
,三徳川において上流から下流への礫径変化,山地河川内の巨礫分布を調査した.また,DEMの解析や地形図の判読,現地調査により,バッファーやバリアーの分布,河床勾配やその変動について検討した.これらにもとづいて流域規模における堆積物の連結性を規定する要因を議論する.
2.地域概観 天神川水系は一級水系であり,流域面積490 km
2のうち約90%を山地が占めている.流域の形状は菱形に近く,本流である天神川は,中・下流において三徳川や大山東部に源流をもつ
小鴨川
を合わせる.天神川上・中流には花崗岩や花崗閃緑岩,三徳川上流には安山岩や玄武岩,
小鴨川
上流には安山岩が主に分布する.
3.バッファーとバリアーの分布 本研究では,流域内の傾斜3.5度以下の領域をバッファー,堰や滝をバリアーとした.バッファーは,河口から約11 km地点にある天神川と三徳川の合流点よりも下流側および
小鴨川
左岸側の段丘化した火山性扇状地付近に広く分布する.バッファーの広さは,上流に向かって河床勾配が大きくなるにつれて減少する.天神川水系には上流・下流問わず,各所にバリアーとなる堰が分布している.天神川,
小鴨川
,三徳川の三本の河道内で,少なくとも48箇所に堰の設置が確認された.
4.礫径変化とそれを規定する要因 天神川(5 km–22.6 km)では,上流に向かうにつれて平均礫径の増加傾向がみられ,5 km,6 km付近では約4 cmであったものが,20 km付近では15 cmを超えるようになる.三徳川(0 km–5 km)は,調査地点が少ないといった問題はあるものの,平均礫径は約8 cmで,地点による差もみられなかった.
小鴨川
(0–17.5 km)では,天神川と同様に下流(0–2 km)に比べて上流(15–17.5 km)の礫径は大きい.しかし,4–14 km付近では礫径の変動はみられたものの,上流に向かっての礫径の増加は不明瞭であった.
5.巨礫分布とそれを規定する要因 河道内に分布する礫径50 cm以上の礫を巨礫とみなした.流下方向に沿って0.5 kmから1 kmごとに調査地点を設定し,調査地点から上下流15 m(合計30 m)の範囲に分布する巨礫を目視により数えた.巨礫は大きさにより,小巨礫(50 cm–1 m),中巨礫(1 m–3 m),大巨礫(3 m–)に区分した.
天神川では28.6 km地点において中巨礫以上の割合が最も高くなっている.また,30.5–32 kmの区間では巨礫の数が急減するものの,最上流部に向かって巨礫の数が再び増加する.
小鴨川
では24 km地点より上流から中巨礫以上の巨礫が急増し,27.5–32.5 kmまで中巨礫が確認された.しかし,25 km,26 km付近には巨礫が分布しない.この区間には複数の堰が設置されている.三徳川では天神川との合流点直前(最下流部)においても中巨礫が分布する.中巨礫は人為改変がおこなわれている地点でも確認されるため,元々河道にあったものなのか,人為的に持ち込まれたものなのかは不明である.9–11 km地点のみに大巨礫が分布していた.また,15 kmより上流では巨礫がみられなかった.
中巨礫や大巨礫は,角礫であったり,苔に覆われていたりすることから,谷壁や支流から河道内に供給されたもので,流水による運搬(距離)は小さい,もしくはほとんどないと考えられる.巨礫の供給源である谷壁から河道までの距離と巨礫の数の相関を検討したところ,弱い負の相関(-0.38)がみられた.したがって,谷壁からの物理的な距離,ほぼバッファーの広さに相当,は巨礫供給の連結性を規定する要因の一つといえる.谷壁から河道への距離が近いにも関わらず巨礫が分布しない地点も存在するが,この理由としては谷壁の地質の影響が考えられる.
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