4令起蚕において, 冷蔵, 中腸型多角体病ウイルス添食および冷蔵後中腸型多角体病ウイルス添食など, 蚕の中腸型多角体病を発生させるような二, 三の条件を与え, 中腸皮膜細胞の病理組織学的変化を観察し, 細胞の感受性とその局所差の有無を観察し次の結果を得た。
(1) 春蚕期支115号を材料とし4令起蚕を5℃ に24時間冷蔵したところ, 外観上空頭蚕病状を呈し中腸型多角体病とならず, 組織学的には中腸皮膜の円筒細胞は細胞質に空胞が多くなり, 核は著るしく膨大し, その染色質の分布など著るしい異常を来たした。この様な細胞には決して多角体形成がみられなかった。
(2) 同様な4令起蚕に一定量の中腸型多角体病ウイルスを添食させたところ, 同じく外観空頭蚕症状の病蚕となり, 組織学的にも殆んど (1) の場合と同様な異常を呈した。
(3)(1) と同様に冷蔵した蚕に (2) と同様に中腸型多角体病ウイルスを添食させたところ, 外観は空頭蚕症状を呈すると共に, 大部分は中腸型多角体病蚕となった。しかしこの区では多角体を形成した細胞でも (1),(2) にみるような細胞質の空胞化, 核の膨大化は全く見られなかった。
(4) 上記 (1) および (2) の場合における円筒細胞の空胞化, 核の膨大化などの異常現象は中腸後部に早期にかつ顕著に現われ, 漸次中部および前部へと移行して行くが, 前部の変化は常に軽度である。
(5)(3) の場合における中腸型多角体の形成もはじめ中腸後部に起こり, 漸次中部に進み最後に前部に移行する。
(6) 中腸型多角体病感染の比較的初期には, 中腸最後端部の20~30個の細胞には, 一般に多角体は形成され難い。
(7)(1),(2) および (3) の結果から, これらの処理によって生ずる細胞の形態の異常変化は中腸後部の細胞に顕著に現われることがわかったが, このことから襞の多い後部の細胞は環境の変化やウイルス感染などに対し最も感受性が大であり, 中部, 前部と前方にいたる程順次感受性が小さいようである。
(8) 組織学的観察から判断すると, 多角体を形成しない型の空頭症状蚕になるか, あるいは中腸型多角体病蚕になるかは, 病気誘発または感染の極めて初期に決定されてしまうものと考えられる。
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