日本蚕糸学雑誌
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家蚕幼虫消化器官の局所的機能差に関する研究
(VII) 中腸型多角体病発現と中腸皮膜細胞における核酸の分布およびその動き
山口 定次郎
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1962 年 31 巻 2 号 p. 114-121

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抄録

家蚕中腸皮膜細胞の正常な場合および中腸型多角体病を誘発させようとした場合とについて, 組織化学的ならびに超生体染色法をもって核酸の分布とその動きを観察し次の事実を明らかにした。
(1) 中腸皮膜細胞のDNAおよびRNAの染色性についてはMG・Pによる染色の場合組織片切ではpH 4.7が適当し, 生細胞の場合はpH 6.5が適当する。PHがこれより高低いずれの場合も染色度やDNAとRNAの染め分け度が低下する。
(2) 中腸円筒細胞の細胞質は全体としてPに赤染されやすく, したがってRNAが多い。しかし紫色を帯びる場合も見られる。盃状細胞の細胞質は常にRNAが少ない。
(3) 中腸円筒細胞の核はMGに青緑色に染まりやすく紫色を示す場合も見られるが, FEULGEN反応も陽性でDNAが多い。盃状細胞の核は一般にDNAが少ない。
(4) 冷蔵処理によって中腸円筒細胞のあるものでは核中に大小不規則の1乃至数個の仁が赤染されRNAの多いことが見られる。また中腸型多角体病蚕の円筒細胞の核はMGでもデラフィールド・ヘマトキシリンでも淡染または不染で, DNAが少なく形も不規則になる。
(5) 蟻蚕や起蚕では中腸細胞の細胞質にRNAが少なく, 食桑すれば急に増加する。一般に食桑期に比して催眠期から熟眠期にかけてはRNAが少ない。
(6) 円筒細胞の核のRNAと細胞質のRNAは相互に関連があり, また円筒細胞の核のDNAも細胞質の方へ浸出する場合があるように思われる。
(7) 中腸型多角体形成初期の円筒細胞では細胞質にRNAが増加する。とくに核膜の外周, 細胞の上部および形成中の多角体の近辺に多い。多角体形成が完了するとRNAは減少する。
(8) 一般に中腸後部の皮膜組織にはRNA多く, 中腸前部これに次ぎ中腸中部には少ない。すなわち中腸の部位により細胞のRNAの量に相違があるように思われる。

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