小児の上顎骨は,内部が複雑な環境のため,骨構造に関する詳細な報告は少なく,形態的見地からこれを検討したものは数少ない。また,小児歯科学や歯科矯正学的見地からも,歯牙交換,歯槽の発育変化を含めた顎骨の内部構造を知ることは重要である。
本研究は,乳歯列期から混合歯列期の小児上顎骨切歯部の萌出相の推移に伴う内部構造の経時的変化を解析することを目的として,骨梁構造ならびに緻密骨の観察および骨形態計測を行い,検討を加えたものである。
その結果,骨梁密度,骨梁幅,Specific lengthは顎骨内に永久歯胚が存在する時期において高い値を示し,歯牙交換期において減少し,永久歯萌出後増加傾向を示した。骨梁の走行方向を割合で示した方向成分比は,乳歯列期から混合歯列前期では顎骨内の永久歯胚もしくは歯軸の方向に走行する骨梁の割合が多かった。永久歯萌出後,混合歯列後期にかけては,多方向に走行する骨梁の割合が増加し,走行方向は分散する傾向を示した。緻密骨の幅は,中切歯部では唇側口蓋側共に萌出相の推移とともに増加傾向を示した。側切歯部では,唇側は乳歯列期から混合歯列中期まで増加し,後期にかけて減少した。口蓋側は萌出相の推移とともに増加傾向を示した。
小児上顎骨は,上顎骨自体の構造および発育と歯牙交換期における力学的環境変化が,骨梁構造ならびに緻密骨の幅に強く影響を与えていると考えられた。
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