本論は, 川崎市を事例としてとりあげ, 都市水害の常襲地域の形成過程を明らかにしようとしたものである。まず常襲地域を選択し, 水害の特徴について調べ, 典型的な都市水害の常襲地域であることを明らかにした。そして, 土地条件の悪い地域の都市化が, (1) 戦中期の軍需工場進出期と, (2) 戦後の高度経済成長期 (とくに1950年代中頃~60年代初め) に, 集中的に進行したことが判明した。このうちとくに (2) の時期について, アンケート調査の結果によって居住地選択の特徴が明らかにされた。これらの地域には, 戦後をとおして“若夫婦のみ”ないし“第1子が小学生”程度の特定のライフ・ステージの家族が居住地として選択してきており, 選択の際には通勤・通学や地価・家賃といった条件が主として考慮されて, 水害のことはほとんど無視されていたのである。このような居住地選択がなされることを前提として宅地化がなされ, 結果として, 都市水害の常襲地域が形成されるに至ったと考えられる。
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