臨床的に健康な歯肉を有する成人の初期歯垢より分離された通性嫌気性のグラム陽性菌について検索を行った.分離株はすべてGemelleに近縁の菌と思われたので, 対照として
Gemella haemolysans ATCC 10379および
Streptococcus morbillorum ATCC 27874を用いた.分離株は不規則な塊状配列を示し, 時にpairないしtetradを形成した.長い連鎖はみられなかった.電顕所見では菌体の周囲にflocular materialが存在しているのが認められた.発育環境は嫌気的環境より好気的環境のほうが良好な発育を示した.生物学的性状としては, catalase, oxidaseを産生せず, 20% bile, 2% NaCIでの発育は見られなかった.硝酸塩の還元はなく, H
2S, indoleを産生しなかった.glucoseより多量の酸を産生し, 培地のpHを4.6-5.2とした.そのおもな代謝産物は乳酸であり, その1/3-1/4量の酢酸を産生した.DNAのG+C含量は32mol%であった.対照として用いたG.
haemolysansは33.5mol%, S.
morbillorumは28mol%であった.菌体の脂肪酸組成において, 分離株はG.
haemolysansと類似していた.これに対し
Smorbillorumは分離株および
Ghaemolysansと異なり, ステアリン酸 (18 : 0) の相対含量がこれらの1/2量であった.ゲル内沈降反応を用いた血清学的性状においては, 分離株は
G.haemolysansおよび
S.morbillorumのどちらとも沈降線を形成しなかった.また
G.haemolysansと
S.morbillorum間においては明らかな沈降線が認められた.これらのことから分離株はgenus
Gemellaに属すると思われるが, 血清学的には異なっており, 新しいspeciesないしserogroupを考える必要があると思われる.また
G.haemolysansと
S.morbillorumの相同性について, Facklamは両者は同一種であると述べているが, 本実験では生物学的性状, ガス環境による発育の違い, 菌体の脂肪酸組成, DNAのG+C含量などにおいて相違が認められたことから両者を同一であると見なすのは困難であると思われる.
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