岩手県の北上山地では,多くの牧野組合により肉牛の日本短角種が放牧されてきた。近年では,自然牧野の多面的機能も注目されるが,面積の減少が進む。本研究の課題は,牧野の管理主体である牧野組合の経営展開と牧野管理の変遷を明らかにし,持続可能な牧野管理の研究に資することである。対象とした岩手県岩泉町大川地域の2つの牧野組合では1960〜1980年代の草地開発により,牧野を従来の広大な自然牧野から集約的な牧草地主体の管理形態へと変容させ,これに伴い生産性が向上する一方,肥料等の管理コストも増大した。しかし1991年の牛肉輸入自由化により組合員と放牧頭数が大きく減少し,両組合は牧野面積を削減せざるを得なかった。また,草地の管理費用,草地開発の負担金,国有林の借地料等が経営を圧迫した。2001年からは中山間地域等直接支払が交付され,当面の経営問題が解消されたかのようにみえる。そうした中,両組合は組合員と放牧頭数の減少に歯止めをかけるため,独自策で組合員の支援に力を入れる。1990年代以降,牧野組合は牧草地を削減し集約的な管理へと変遷してきたが,それでも管理費用はなお大きく,自然牧野を含めた持続的管理のあり方を検討する時期にきているだろう。
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