抄録
従来型の食料供給体系に対するオルタナティブな流通としてショートフードサプライチェーン(SFSCs)が注目を集めている.本研究では,1991年の牛肉輸入自由化以降2004年までの岩手県産短角牛肉流通の動態を,供給連鎖の短縮・単純化,密な主体間相互作用,特定の場所との密な相互作用というSFSCsの動的システムとしての三つの特徴の効果発現の条件に焦点を当てて分析し,SFSCsの安定的な存立のための条件を探った.本研究の事例は特に,特定の場所との関係強化という方向で安定化を図ってきたが,ローカル性による差別化は容易ではなく,消費者の嗜好への対応や行動原理への地道な働きかけが必要であった.同時に,需給調節や資源循環型技術の実現といった課題を克服し,三つの特徴の効果発現を通じてSFSCsの安定的な存立を図るには,流通業者や生産者の公益性や助け合いを重視する行動原理の維持・強化が重要であった.