【はじめに】
我々は、これまで造血細胞移植(以下、移植と略す)前後での体力変化とその対策(運動療法)について検討してきた。
移植により安静状態が続く結果、多くの患者が体力低下に陥ることは多くの文献でみられる。今回、移植前後の体力変化と合併症(特に発熱)の関係について検討した。
【目的】
移植前後の体力変化の原因を明らかにすることを目的とする。
【対象】
平成14年9月から平成17年10月に当院血液内科病棟にて行われた造血細胞移植49例に対し、患者様の同意の下に移植前後の体力評価ならびに運動指導を行った。今回対象とするのは、移植前後に体力評価が行えた12例とする。性別は男性6名、女性6名。年齢は、40歳から65歳(平均年齢48.5歳)。移植方法は、末梢血幹細胞移植9例、骨髄移植1例、臍帯血移植2例であった。
【方法】
評価項目としては、握力・6分間歩行テスト(以下6MDと略す)・長坐位体前屈・開眼片足立ち・四肢周径を用いた。評価時期は、移植前・移植後30日にて行い、今回は握力・6MDの変化と発熱日数とを比較検討した。移植後無菌室入室期間中は、基本的には自主運動とし、定期的に運動実施状況を確認し、必要に応じて個別での運動療法を行った。
【結果】
無菌室入室期間の平均日数は32.9日であった。無菌室入期間中の発熱(38度以上)は12例中10例にみられ、発熱日数の平均は4.6日であった。その他合併症として、急性GVHDは、grade1が2例、grade2が1例であった。
移植前後の握力の変化は増加4例、低下8例、6MDは増加6例、低下6例であった。 発熱期間の平均は、握力の増加群は2.5日、低下群は5.6日、6MDの増加群は4日、低下群は5.2日であった。発熱期間と握力・6MDの関係では、握力はピアソンの相関係数の検定にて危険率5%にて有意に相関があったが、6MDでは相関はなかった。
【考察】
移植後の身体機能低下に関する報告はみられるが、その原因に関する報告は少ない。今回、移植患者を対象に、無菌室入室期間における合併症の中でも特に発熱と身体機能(握力・6MD)の関係を調査した。握力は、全身の筋力の一指標とされるが、今回の検討では握力低下群は有意に発熱日数が長かった。無菌室入室期間中の筋力低下は臥床による廃用症候群が考えられるが、その原因の一つとして、発熱による不動期間も影響している可能性が示唆された。 持久力に関しては、6MDにて相関関係はみられなかったが、これは、症例数が少なかったことや、その他の合併症、自主トレーニングの影響、有熱期間が比較的短かったことなどが要因と考えられた。
現在、無菌室入室期間は短縮傾向にあるが、合併症による臥床傾向は依然移植後の身体機能に大きな影響を与える因子であり、発熱を伴う合併症のある症例に対し、いかにその機能を保つかという取り組みが今後必要である。
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