上古時代の鐵鏃は、古墳副葬品として出土するものを普通とし、極めて少數の砂丘遺蹟發見のものを數へ得るのみである。而して古墳副葬品としては刀劔等と共に普遍的性質のものであり、殊に後期古墳に於いて著しいものがある。随つて若しこれが年代観を確立することが出來るならば、古墳研究、ひいては上代文化發展の考究に資するところが多からうと思はれる。ところが、鐵鏃はその性質が實用を專らとし、かつ多數を必要とし、しかも消耗的性質のものであるが爲めに、藝術的便値乏しくして人の好術に副はす、かつ鐵製であるが爲めに錆朽ち易いので、從來學者のこれを論究するものなく、僅かに余の先年考古學講座に「原史時代の武器武装」を論いた時に論及を試みたものがあるに過ぎない。しかもその愚読開陳も既に十數年以前の事に屬し、その後の新資料を加へて所説を更新する必要がある。
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