【目的】
脳性運動障害の中で片麻痺、痙直型両麻痺において、運動発達停滞後に起こる関節可動域制限、亜脱臼という問題は、機能障害以上の比重を占めるようになってくる。また重症児においても同様で、手術を必要とするが、1年程で術前の緊張状態に戻り、数年後再度の手術を必要とするケースも非常に多いというのが現状です。しかしこれらの内容は、当然の事として両親に説明され、筋解離術後の独立したアプローチは行われていません。今回痙直型両麻痺児において四つ這いの下肢交互性の改善に対し、運動学的分析、アプローチを行い、同様の方法で術後の股関節の状態を改善あるいは維持することが可能か、術前、術後の訓練を通して観察してみることにしました。
【方法】
股関節筋解離術の日程が決まった症例に対して、術前、術後のアプローチを通して、股関節の運動の改善、レントゲンでの改善、運動発達の改善を目的に分析、アプローチを行いました。今回は、正常運動発達から分析した筋の発達過程での機能を運動分析に応用しました。
【結果】
術前に行ったアプローチにより、股関節内転筋群の短縮改善は出来なかったが、内側ハムストリングスの短縮、内側偏位には効果的で、ギプス固定期間が2週間に短縮された。術後2週間ごとに分析すると、推測していた通り、徐々に股関節内転運動が強くなり、内側ハムストリングス、縫工筋の順で短縮が悪化するのが観察された。しかし、退院後に集中的に訓練を行ったことで、縫工筋、内側ハムストリングスの短縮は改善した。また、下肢の伸展運動が改善し、他動的に四つ這い位保持が可能となり、レントゲン上でも明らかな改善が見られた。
【考察】
・3ヶ月で起きる運動発達遅滞、異常運動と3歳で起きる機能障害、運動発達停滞、関節可動域制限を同じようにすべて中枢神経系の障害に起因するものとして分析することは、脳性運動障害の本質を理解していないと思います。
・筋解離術後の下肢の運動を観察すると、関節の運動障害に関わる筋群全てが痙性等病的収縮筋ではないということが推測される。
・適切なアプローチにより機能し始める筋を観察すると、筋機能の発達の停滞ということも考えなければならない。
・痙性筋等筋機能の本質を見極めるには短縮、偏位を予防して機能を維持することも重要である。
【まとめ】
・以前から考えていた股関節筋解離術後の股関節周囲筋への独立したアプローチの必要性が明確になった。
・正常運動発達における筋機能の段階的な機能の発達を脳性麻痺の運動分析に応用することが重要である。
・発達の過程で観察される運動障害を運動パターンではなくて、個々の関節運動の障害として観察することが重要である。術後の股関節周囲筋に対する独立したアプローチの重要性もこのことから理解することができます。
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