宇宙空間電磁場は,宇宙線組成の主要部分を占める荷電粒子の進路を偏向させるので,よほど高いエネルギーの宇宙線でない限り,検出器で測定される入射方向は宇宙線源の方向から大きくずれることになる.さらに,宇宙空間電磁場が持っている様々な空間スケールの揺らぎが宇宙線を散乱(ピッチ角散乱)させるため,宇宙線強度の異方性は宇宙線源からの距離に反比例して減少していき,はるか遠方の宇宙線源の方向を指し示す異方性が地球で観測できるとは到底期待できない.一方で,観測される宇宙線強度には現実に異方性が存在する.その振幅(入射方向に応じた強度の違い)は一般に~0.001(~0.1%)程度とわずかではあるが,長期間安定に宇宙の一定方向からの宇宙線の「流れ」が存在することを示唆している.この異方性の起源は何であろうか?最近,チベット高原で世界最高の計数率を誇る空気シャワー観測装置が観測を開始した.この装置による精度の高い観測結果は,宇宙線異方性に関する新しい知見を提供するものとして期待されている.
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