【背景と目的】不妊治療の進歩に伴い双胎の出産率は増加傾向にあり, 双胎児の母親の育児負担による育児ノイローゼや虐待などが母親の心理的健康の問題として浮上しており, 母親になる心理的過程への援助の必要性が示唆されている。双胎妊娠に関する従来の研究を概観すると生殖科学や育児支援に関する研究がほとんどで, 双胎児の母親意識の形成・変容に関する報告は少ない.そこで, 本研究は, 妊娠期の母親意識の実態をとらえ, 双胎妊婦の母親意識の形成と変容について検討することにより母親の心理的援助のあり方を検討する資料を得ることを目的とする.【対象と方法】調査の対象は, 双胎と診断され, 研究参加に同意の得られた妊婦13名.初産婦9名, 経産婦4名でった.妊娠初期, 中期, 後期の母親意識と子どもに対する気持ちについて半構成的面接が行われた.面接された逐語録から母親意識と子どもに対する気持ちが抽出された.【結果】妊娠初期は, 双胎を妊娠しているという実感はそれほど感じられていない.妊娠の診断時に医師より「双子ですよ」と伝えられたり, エコーでふたつの胎児の姿を確認したりなど, 外部から双胎妊娠について正確な情報が妊婦に送り込まれることによって母親としての自覚が芽生える時期であるといえよう.中期には, 単胎児の母親意識の発達と同様に胎動自覚によりそれぞれの胎児に対する具体的な気持ちが表出される.一方, 妊娠継続胎児の発育に問題が生じた場合は母親としての自覚が強くなることが示唆された.妊娠経過中に母児いずれかに何らかの異常を認める場合には, 医師による産科学的管理とあわせて母親になる心理を支えるような心理的援助が望まれよう.後期には医師より分娩の方針が妊婦に伝えられることにより母親になる実感がより強くなるようである.双胎の場合, 妊娠後期になると腹部の増大が顕著になるために, 腰痛, 胃部不快感, 尿意頻数など様々なマイナートラブルが出現するので, 赤ちゃんのためにがんばることにより精神的ストレスを感じていることも事実であろう.双胎妊娠であること自体が妊娠期の母親意識の形成に影響を及ぼしているように思える.【考察】双胎妊婦の母親意識は胎動を自覚するまでは, 超音波画像によって形成され, 胎動自覚後は, 子どもたちの発育・健康状態に強い影響を受け, 分娩のめどがつくと具体的に双胎児の育児がイメージされることによって母親役割獲得の心理的準備がなされることが示唆された.
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