神経学的所見および神経伝導速度を用いて
手根管症候群
の早期診断法について検討を加えた. 対象は5年以上血液透析を受けている52名 (男36名, 女16名) の患者で, 平均年齢48±12歳, 平均透析期間8.5±2.6年である. 各患者の両手につき, 手のしびれ, 疼痛などの自覚症状, Tinel's sign, Phalen testなどの神経学的所見, 正中神経, 尺骨神経のdistal motor latency (DML), 正中一尺骨神経DMLの差 (median-ulnar difference), 四肢のmoter nerve conduction velocity (MCV) の測定をおこなった.
その結果, 明かな自覚症状を有する
手根管症候群
(A) の発症は4肢 (3.8%) であり, 自覚症状はないが神経学的に異常所見を有する群 (B) は17肢 (16.3%) であった. 自覚症状も神経学的異常所見もない群 (C) は83肢 (79.8%) であった. 正常control群に比してDMLはA群, B群, C群ともに高値を呈した. Median-ulnar difference値はcontrol群に比しA群, B群は有意の上昇を認め, C群では有意差を認めなかった. Median-ulnar differenceがMCVに影響されないのに対し, DMLは影響され, MCVの延長している末梢神経障害患者で延長した.
結論として初期
手根管症候群
の診断にDML, median-ulnar differenceの測定は有用である. median-ulnar differenceはMCVの延長している長期透析患者においてもその影響を受けず, DMLに比しより診断に有用であると考えられた.
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