背景と本研究の目的
海藻藻場は、一次生産による酸素や食物の供給、アワビ類やウニ類などの水産上重要な種を含む様々な生物に住処を提供するなど、沿岸生態系において重要な役割を果たしている環境である (Muraoka 2004; 藤田 2004)。近年、温帯海域を中心に藻場が消失する磯焼けが著しく、それに伴う水産資源の減少が問題視されている。そのため、海藻藻場の再生を目的として、切石やコンクリートブロックの投入による人為的な藻場造成がしばしばなされる。しかし、その場所が藻場の造成に適した立地条件であるかどうかは、十分に検証がなされていない現状にある。海底環境を改変する場合にも、陸上と同じく地形や植生の詳細な分布を把握したうえで、施工計画を進めるべきである。
本研究では、2016年度に福岡県糸島市姫島沿岸の80 m×20 mの範囲に設置された人工
投石
礁を対象に、フォトグラメトリ(写真測量)を用いて海底植生地図を作成し、どのような立地で豊かな藻場が成立しているか、あるいは藻場が成立していない条件を明らかにすることを目的とした。
調査方法
2023年3月、GoPro Hero8を3台、水中ライトを4台用いたマルチカメラシステムを用いて、1秒間隔で57分間、この
投石
礁を走査的に撮影した。得られた9,751枚の写真をAgisoft Metashapeに適用し、0.07 m解像度の3次元モデルを構築した。得られた3次元モデルから1,111個の
投石
を識別し、
投石の置かれた場所の底質と投石
帯上の植生タイプを記録した。底質は砂底上と転石上に分類し、
投石
上の植生は無植生、フクロノリ群落、ワカメ群落、アカモク群落、多年生ホンダワラ類群落、多年生ホンダワラ類-ワカメ混生群落の7種類に分類して、植生地図を作成した。
結果・考察
調査した
投石
帯では、転石帯の上に561個、、砂地の上に550個の
投石
が配置されていた。転石帯上の
投石
においては、無植生あるいは繁茂時期がごく短いフクロノリ群落が多く見られた。一方、砂底上の
投石
においては多様な中~大型海藻類からなる多年生ホンダワラ類-ワカメ混生群落が最も多く、無植生やフクロノリ群落となる場所は少なかった。
砂地上の
投石
において豊かな海藻植生がみられたのは、温帯海域において主要な藻食動物であるムラサキウニには砂地を避ける生態があり(Imai and Kodama 1994)、ウニ類の個体数密度が低かったためであったと考えられる。砂底上であっても自然の転石帯に囲まれた谷や窪地となった場所に置かれた
投石上や複数の投石
が積み重なった場所では、海藻植生が貧弱な傾向にあった。これは、ムラサキウニの生息に好適な漂砂の影響を受けにくい環境が生じているためと考えられる。以上の結果より、
投石
によって藻場を造成する際には、既存の転石帯の上や隣接地を避け、砂地の上に低い密度で
投石
を設置することが適切であると考えられる。
藻場造成の現場では、藻場の成立条件に合わせた造成計画がなされていない場合がしばしばある。調査地でも、約半分の
投石
は磯焼けした転石帯上に配置されており、海藻植生は貧弱となっていた。本研究で得られた知見を基に、すべての
投石
が砂地の上に設置された場合には、約2倍の面積の藻場を創出できたであろう。本研究で作成した海底植生地図は、このような学術的な知見を視覚的に広める手立てとなると期待される。
引用文献:
Akita et al. (2021) Algal Resources 14, 49–58.
藤田大介 (2004) 水産工学39, 41–46.
Imai and Kodama (1994) SUISANZOSHOKU 42, 321–327.
Muraoka (2004) Bull. Fish. Res. Agen. Supplement 1, 59–63.
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