温室効果ガス排出量を今世紀半ば以降にゼロにするという世界の課題に日本が応えていく確実な道筋を明らかにするために,人為起源CO2の削減について,これまでの政策および各種シナリオをレビューした.そのうえで,既存の優良技術を活用して省エネと再エネ導入を進めるだけでも,CO2排出の大幅削減と持続可能な脱炭素のエネルギー需給構造への経済的な移行が可能であることを明らかにした.
すなわち,ボトムアップ・モデルにより,「活動量」A, Bと「対策」0, 1, 2の組み合わせでシナリオを構築し,「活動量」には,A)大量生産継続とB)活動量中位(2015年実績から人口に比例して減少)の2ケースを,「対策」には,0)対策なし,1)2019年段階ですでに実用されている既存優良技術の普及(GTP),2) GTP+電炉製鋼拡大の3ケースを設定し,2030年および2050年の,一次エネルギー供給,最終エネルギー消費,CO2排出量を算出し,比較検討した.ただし,運輸部門には,商業化直前の電気自動車を,産業高温熱利用と船舶,航空については,化石燃料利用の継続を想定した.原子力,水素,CCS, CCU, 気候工学,海外からのクレジット購入は想定しなかった.
積算の結果,既存優良技術の普及により,2050年度のエネルギー起源CO2排出量は1990年比90%以上削減できること,既存優良技術の積極的普及が,活動量の大小を上回る大きな効果を生むことが明らかとなった.また,CO2の累積排出量とカーボンバジェットとの関係について検討し,2030年までの対策をそれぞれ,2年ないし5年前倒し実施すれば,気温上昇2°C目標,1.5°C目標ともに満足できることを明らかにした.
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