本研究では、2000年代以降の社会科学において注目されている「移動論的転回」にかかる議論を参照しながら、観光のための場所が、多様な移動が関係するなかでどのようにして創り出されているのか、そしてその場所自体がいかに移動しているのか、といった点について考察した。こうした動的な様相を明らかにするにあたり、対象とする場所に意味の競合が見られる傾向にあるダークツーリズムに注目した。事例として、沖縄本島における墓地を対象とした観光について検討した。
まずⅡ章では、戦前期における沖縄本島において、様々な移動を通じて墓地を対象とする観光がいかに生じたのかについて、大阪商船の役割や辻原墓地の観光地化に焦点をあてて考察した。続くⅢ章では、観光対象としての墓地の移動について、関連する諸移動や社会・政治的状況の変化に注目しながら、戦後における辻原墓地の整理や南部戦跡観光に焦点をあてて検討した。そしてⅣ章では、ダークツーリズムという概念そのものの移動をふまえ、沖縄本島における墓地を対象とした観光の新しい変化について論じた。
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