少子高齢化, 高学歴志向および資格社会が急速に進行する状況下で, 地方の短期大学における女子教育がどうあるべきか, 33 年間, 255 名の卒論研究の指導を振り返り, また, 地域社会との関わりを大切にする中で, 新しい教育の方向性を模索した.
(1) 飯田女子短大食品学研究室における卒業研究の現状は, 次の (1) ~ (5) の通りである. (1) 履修は選択性. (2) 大部分が数名の共同研究. (3) 研究テーマは, 学生の希望を尊重し, 教員研究の一端を担わせることはしない. (4) 指導教員は講師以上. (5) 履修率は, 食物栄養専攻全体では, 平均 29.1%, 食品学研究室では, 平均 16.3%. いずれも, 1982 年頃が最高で, 近年は極めて少ない. (5) 研究方法は, 実験・実習の授業で学んだ手法を応用することが多い.
(2) 卒業研究の履修者の減少は, 2 年生前期の多忙な学生生活 ((1) 時間割が過密, (2) レポートが多い, (3) 学外実習に向けての準備とその精神的なストレス, (4) アルバイトなどが原因), 学生の価値観・気質の変化 (免許・資格の取得とアルバイトを優先し, 地味な研究を敬遠する), 社会状況 (経済・就職) などが影響している.
(3) 短大での卒業研究は, 短い研究時間を有効に活用し, かつ, 研究レベルを高めるためにグループ研究を行う意義が大きい.
(4) 学生の研究時間を確保するためには, 教員間の協調が大切で, 各科目間の開講時期や教育内容の重複を調整し, 効率的な教育を行う, また, レポート等の提出の回数・内容・提出時期の調整も必要と考える.
(5) 短大生は, 研究心の源とも言える事物事象に対する関心はかなり強い. しかし, 新しい発想や複雑な研究データの処理, 結果・考察などのまとめ作業がやや苦手である.短大生には, まとめ方の指導が大切である.
(6) 卒業研究が低迷する中で, 学生の研究心を育むためには, 実験・実習の科目内で研究的な授業の企画が必要である.
(7) 飯田女子短大が立地する地域社会は, 高齢化率が高く, 高齢者の健康の維持・増進のための食生活の支援と, そのための食品の研究・開発が重要な意味を持つ.また, 食品企業が多く, 重要な地場産業である.この地域社会への貢献は, 地元の短期大学として大切な使命で, 人的, 知的な支援を考えた教育と研究が重要である.
(8) 飯田女子短大では, 地域社会の期待に応えて, 人の健康の維持・増進に向けて, 的確な対処ができる食の専門家の育成, また, 食品関連企業への支援, 学生の研究心の向上などを目的に, 次の (1) ~ (6) の新たな取り組みを行っている. (1) 高齢者の食事介助・援助と生活習慣病対策が行え, かつ, 豊かで, 楽しい食生活をコーディネートし, また, 消費者に正しい食情報を提供できる栄養士等の育成 (訪問介護員, 介護保険実務士, フードスペシャリスト資格の取得とその関連科目の充実). (2) 学生の研究心を育み, かつ, 地場産業に貢献できる人材を育成するために実験・実習の中で, 地場産業に関連した加工品の開発や成分研究などを取り入れた授業を展開している.これらに対して文部科学省の「地方高等教育機関の活性化に関する助成」制度で2回助成を受けた. (3) 地域社会に向けての食情報の提供は, 教員サイドでは日常的に種々の方法で行っているが, これを学生に体験させるために, 学生の作った「私の一品料理」の献立を中日新聞地方版に週 1 回, 2 年間にわたり連載した.この企画は, 食物栄養学の総合学習として, また, 研究心を育む観点からも大きな意味があった. (4) 栄養学, 医学・看護学, 介護福祉学関連の壁を越えた学際的な研究や専門家の育成が必要と考え, 学内に教員組織として「食と健康を考える会」の研究会を2年前に発足させた.研究成果は, 随時, 学生および地域社会に還元している. (5) 人の健康の保持・増進をより確実なものにするために看護師・保健師などの免許を持つ栄養士の育成を開始した.この試みを援護するために学則に基づく, 細則「再入学・転科・転入学に関する規定 (1999年 2 月 1 日施行) 」を新たに作り, 入学金の免除などの規定を設けて志す学生を支援している.そのために土台になる食物栄養学の知識をしっかり身に付け, 学究的であって欲しいと願っている. (6) 卒業生並びに地域社会で働く栄養士のレベルアップを目的に, 管理栄養士国家試験対策講座を開講している.
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