1.目的
日光街道
桜並木(以下桜並木)は宇都宮市上戸祭町から今市市山口までの総延長16kmにわたって植栽されているヤマザクラ(以下サクラ)の並木である.植栽後50年を過ぎた現在,材質腐朽病害が多発しており,突然の幹折れ・枝折れが人に被害を及ぼすため,腐朽病害の防除対策が必要である.しかし緑化樹木の腐朽病害研究例は少ない.また,腐朽菌は樹木の生育状態,環境条件により分布に差が生じるため,まず腐朽菌を同定し,その生態を把握することが必要である.
そこで本研究では,桜並木のうち宇都宮市内1105本のサクラにおいて材質腐朽病害の菌類相およびサクラの植裁環境を調査した.これらの結果から桜並木における腐朽菌の分布に及ぼす植裁環境の影響を検討した.
2.方法
サクラ生立木から発生した木材腐朽菌を対象にサクラの個体別に調査を行った.野外観察は5/24_から_7/17,9/4_から_10/10,10/17_から_11/23の3回にわたり,調査項目は1.菌類相調査_丸1_種の同定_丸2_樹木個体内の発生位置,2.サクラの生育環境調査_丸1_サクラの根の露出・傷,枝・幹の車両衝突傷,剪定の後も残された枝(残枝),コスカシバ傷害についてその有無の記録_丸2_サクラ各個体の生育する並木敷形態区分(8区分),_丸3_周囲の土地利用形態区分(オープンエリア・林地・人工構造物の3区分)を行った.
3. 結果
腐朽菌出現種数は49種,その内訳は根株腐朽菌7属7種,樹幹腐朽菌33属42種であり,またその本数被害率(以下 被害率)はそれぞれ46.2%,6.2%,43.3%で,樹幹腐朽菌が根株腐朽菌に比べ,種数・量ともに多かった.
最も被害率の高かった樹幹腐朽菌はカワラタケ(18.8%),根株腐朽菌ではベッコウタケ(5.2%)であった.被害率上位9種の菌について,子実体発生部位を被害本数の多い順に図1に示す.樹幹腐朽菌では枝での発生が,根株腐朽菌では根元での発生が多かったが,例外的にコフキサルノコシカケは樹幹腐朽菌にもかかわらず根元での発生が多かった.さらに,ベッコウタケの発生率は根の露出や傷の有無により有意な差がなかった.樹幹腐朽の発生率は枝・幹の車両衝突傷,剪定痕の残枝,コスカシバ傷害の有無により有意な差があった.ベッコウタケは車道と並木を挟んで水路が存在する並木敷での被害率が高かった.樹幹腐朽は,オープンエリアにおける被害率が高かった.
4.考察
ベッコウタケの侵入門戸は地上部の露出根ではなく,土壌中根系部にある可能性が示唆された.ベッコウタケなど根株腐朽の発生は土壌や水分との関係が極めて密接である.そのため,水路のある並木敷で被害率が高かった理由として,土留めの石垣から土壌へ水が漏水し,加湿になった土壌中で根が枯死している可能性が考えられる.
樹幹腐朽菌がオープンエリアに多く出現した明確な理由は分からなかった.また,枝・幹の車両衝突傷,剪定痕の残枝のあるサクラで被害率が高かったこと,残枝部分に多くの腐朽菌の発生が確認できたことなどから,車両衝突傷や剪定傷害が腐朽菌の侵入門戸となることが示唆された.
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