土偶はバラバラの小片で出土することが多く,出土後に接合することは少なく完形に復元されることは非常に稀である。これを特異な在り方,壊した結果とみるには,同時期の他遺物の出土状況と比較する必要がある。そこで,まず手始めとして土偶がどのくらい壊れているかを,「土偶とその情報」研究会が集成した晩期土偶の資料集(「土偶とその情報」研究会1996)の岩手県分,1,035点を例として,他遺物と比較できる形で数値化してみた。蓋然性のある数値を求めるために,形態(つくり,大きさやプロポーション等)・時期の違いを考慮して数値化した(別稿表)。
形態別に集計した結果を比較すると,まとまった点数のある形態は,x字形土偶と小形無文土偶を除いて,似たような平均値を示すことがわかった(表1)。その値は0.2前後で,頭くらいの部位か,それが欠損した程度の大きさである。また,ほとんどの形態の平均値や最多帯は0.2以下にまとまるのに,完形に近い個体も必ずと言って良いほど存在する(表3)。
平均値の細かい違いに注目すると,大形の形態ほど小さく,小形のものほど大きい,中空の形態は小さく,中実・小形板状の形態は大きいと見ることができる。x字形,小形無文土偶は,平均値,最多帯も含めて,出土時の大きさが大きい。小形で中実,板状の土偶は,大形や中空土偶に比べ残存率(出土時の大きさ)が多様である。また,大型遮光器とその系譜を引く土偶を見る限り,一形態の中で時期による変化は読みとれない(表2)。
以上の形態による違いのほとんどは,つくり(大きさ,形,中空と中実)という物理的条件の違いから起こる壊れ易さの違いと解釈することができる。今後,単純に物理的条件だけで土偶の壊れ方を形態ごとに机上でシミュレーションし,その計算結果と比較すれば,よりはっきりするだろう。
本稿では,最も基礎的な集計のみ行ったので,数学が得意な方に高度な分析をしてもらいたいと希望するものである。また,土偶破壊説の立場をとる研究者が本稿のデータに基づいて批判されることを期待したい。
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