早くからエクメーネ化した日本の農地は所有地の細分性と分散性が著しい.しかし,その改善策はようやく農地改革後に農地集団化事業として本格的に着手されるようになった.本論は日本の社会経済的機構の制約下に実施されている農地集団化が,その具体化する過程やそれが実現した効果なりが地域的多様性を表わしているので,日本における土地改良の研究を進めていく仕事のひとつとして,地理学的な関心の下にこの問題をとりあつかったものである.
(1) まず農地の分散度合の地域的分布をみると,水田と集村が卓越し,一部にに藩政時代の割替制度がみられた北陸と東海地方において分散的であり,これより外周へむけて次第に集団化の傾向が認められる.それと逆相関に経営団地面積は,北海道において最大で,内地では東北地方が大きい.かかる農地の分散要因には,自然的農業経営的社会経済的な要因があげられる.
(2) 農地分散の解決は,栽地整理法のみでは地主の差額地代の取得という意味で推進されたので不十分であった.農地改革を経て,土地改良法下に農業の機械化と経営の合理化にともない本格的に農地集団化が進められ, 1950~1960年に地区数, 9, 123ヶ所,実施完了面積1,686,551町,全耕地面積の31%に達した.これは西南目本の畑地・水田・果樹園と裏日本の水稲単作地帯に著しく,経営規模が大きく機械化のおくれた東北地方と都市化・工業化が著しい東海・近畿地方に進度がおくれるという,かなり事業発展の遅速がある.
(3) 地域の環境条件との関連で,とくに問題となつた農地集団化のタイプは次の3つの場合である.括弧内は事例調査地である. (a) 土地利用の高度化のため作物地帯別の農地集団化を行なって土地利用が更新された場合(長野県飯田市川路地区), (b) 水利慣行を是正し,農地集団化を進めた結果,水稲労働生産量が節減された場合(香川県木田郡三木町丸岡地区), (c) 農地の集団化に伴って集落の二次的分散を行ない農業の機械化の普及と酪農の振興をみた場合(福島県安積郡三穂田地区)などのタイプがある.
農地集団化は農地の開発をアルファとすればオメガにあたる。しかし一度集団化された農地も,時がたてば再編成を余儀なくされる.地域性を考慮した長期計画的な農地集団化が必要である.
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