【目的】妊娠の成立には妊娠段階に応じた胚の正常な発生が必要であり,着床期において栄養膜は増殖と分化を繰り返すことで胎盤形成を主導している。細胞の分化・機能制御にはnon-coding RNAであるマイクロRNA(miRNA)が関与しているが,ウシの栄養膜におけるmiRNAの役割については知られていない。本研究では,ウシ栄養膜・胎膜に発現するmiRNAをマイクロアレイにより網羅的に解析し,その標的遺伝子を探索することを目的とした。【材料と方法】妊娠18,19,21日齢の栄養膜と妊娠35齢(D35)の胎膜(n=3)から総RNAを抽出し,miRBase Version 19に登録されている全てのウシmiRNA(bta - miRNA,755個)を搭載したカスタムmiRNAマイクロアレイ(Agilent社)に供した。リアルタイムPCRにより遺伝子発現を検証するとともに,発現差の認められたmiRNAの標的遺伝子をmiRNA標的遺伝子探索データベースで検索した。【結果】マイクロアレイにより栄養膜とD35胎膜に発現するmiRNAを比較したところ,55遺伝子が有意な発現変動を示し(P<0.05),すべてのmiRNAがD35胎膜に対して栄養膜で高発現だった。リアルタイムPCRで検証したところ,マイクロアレイの結果とほぼ同様な発現動態を示した。これらのmiRNAのなかには,上皮間葉転換や細胞運動性に関与するmiRNA‐200ファミリー,低酸素とアポトーシスに関与するmiRNA‐26ファミリーなどが含まれていた。変動miRNAの標的遺伝子の探索を行ったところ,JUNB/D,E2F1,RHOB,LIF,IGF1/2R,インターフェロンτ(IFNT)などを標的にする可能性が高いmiRNAの存在が明らかになった。【考察】本研究では着床期のウシ栄養膜に発現するmiRNAを初めて同定した。さらに,これらのmiRNAが上記遺伝子を標的にすると予測されたことから,miRNAがウシ栄養膜の分化・機能制御に関与する可能性が示唆された。
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