【はじめに】
骨粗鬆症の予防は,生活習慣の改善にあるとされており,特に積極的な運動は骨密度を維持・増加させることが報告されている.そこで今回,老人保健施設入所中の高齢者を対象に,起床時間・起床時の活動量と骨密度との関係を検討したので報告する.
【対象】
老人保健施設入所者で理学療法実施者(以下:実施群)10名(男性3名・女性7名,平均年齢84.5±7.4歳)と理学療法非実者(以下:非実施群)6名(男性3名・女性3名,平均年齢76.7±12.2歳)を対象とした.疾患の内訳は,実施群では中枢疾患3名,整形疾患5名,内科疾患1名,中枢疾患で骨折の既往がある者1名,非実施群では中枢疾患4名,整形疾患1名,精神疾患1名であった.
【方法】
起床時間と活動量の評価には,アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用いた.各被検者の腰部に本体を固定し,午前9時から翌朝9時までの24時間を測定した.単位時間あたりの身体の傾きから起床状態を判定し,その総時間を起床時間とした.加速度の設定は,0.02G,0.05G,0.1G以上とした.各加速度が0.1秒以上連続した場合をカウントし,その総カウント数を活動量とした.
骨密度は,超音波骨評価装置(アロカ社製AOS-100)を用い踵部で測定した.測定結果は,Zスコア(%)で表した.起床時間,活動量,骨密度を実施群と非実施群で比較し,起床時間,活動量と骨密度との関係を検討した.
【結果】
実施群の0.02Gと0.05 G活動量と骨密度に有意な正の相関が認められた(P<0.01).しかし,実施群の0.1G以上の活動量,および非実施群の活動量と骨密度に関係は認められなかった.両群の起床時間(648.9±230.6分,471.5±258.9分),骨密度(87.2±7.2%,82.8±12.8%,いずれも実施群,非実施群)に差はなく,両群の起床時間と骨密度にも関係を認めなかった.実施群の0.05Gの活動量は非実施群に比べ有意に高い値(p<0.05)を示したが,その他の活動量に差はなかった.また,両群の骨密度に差はなかった.
【考察】
実施群の0.02Gと0.05Gの活動量と骨密度に有意な関係が認められたことは,日常の活動量が骨密度に影響を与えることを意味している.一方,実施群の0.05Gの活動量は非実施群に比べ有意に高い値を示したが両群の骨密度に差がなかったことから,0.05Gの活動量は骨密度に影響を与える強度として十分ではないと考えられる.また,両群の起床時間と骨密度に有意な関係を認めなかったことから,骨密度を維持・増加させるためには,単に起床時間を延長するだけではなく,活動量を増加させる必要があることを示唆している.老人保健施設における理学療法での有効活動量に関する研究が必要である.
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