昭和40年5月1日に湛水を開始した神奈川県津久井湖の陸水学的調査を同年7月より続けているが, 昭和41年8月まで13ケ月の調査結果を報告する。
1.理化学的性状の垂直分布は昭和40年10月1日より運転を開始した揚水発電によるかく乱の影響がみられたので, 発電開始前の状態と比較してみた。
(1) 水温夏季停滞期の底層の水温は湛水当初は低く, 20
m層と4℃以上の温度差があったが, 発電開始後はその差が0.6℃以下と非常に少なくなった。この原因は発電所の放水口が湖底にあるため, 深層の水がかぐ乱の影響を受けるためと考えられる。
(2) 濁度湖水全面が台風で濁ってから清澄になる過程は流入, 放流水量が少ないので湖水の交換が少なぐ, 揚水発電のかぐ乱も加って, 常態に戻るのに相模湖の2倍以上の日数がかゝり, 白濁状態の期間が長く続く傾向があった。
(3) PH値湛水当初の停滞期ではPH値の高い水深が表面から1~3
m層までだったが, 発電開始後は5~10
m層と深くなった。しかしこの現象が発電の影響によるとは断定出来なかった。
(4) 溶存酸素PH他と同じような傾向が停滞期にみられ, 発電開始後は過飽和の水深が深くなっている。一方底層の溶存酸素は湛水当初は45%前後であったのが発電開始後は70%以上となり, 水温と同様, 発電の影響によるものと考えられる。
2台風等で濁った水が流入した時は一般細菌数・大腸菌群ともに多くなるが, 平常は少なく人為的な汚染が非常に少ないことがわかった。
3プランクトンは水源が相模湖に由来するため出現する種類は殆ど同じであったが, 優占種の状態は違っていた。
(1) 植物プランクトン1年間の優占種はFragilaria crotonensis, Synedra acus, Nitzschia acicularis, Scenedesmus spp. (夏) -Cyclotella spp. (秋・冬・春) -Fragilaria crotanensis (初夏) -Nitzschia acicularis, Cyclotella spp. (夏) の順に多くなったが, この他春にAsterionella, 夏にTetraedron, Chlamydomonas, Peridinium等がやゝ多くなった。
(2) 動物プランクトン1年間の優占種はKeratella cochlearis, Diurella spp. Cyclopus spp. (夏) -秋から翌年春まで優占種なし――Keratella cochlearis (初夏) -Conochilus sp. Ploesoma truncatum, Keratella cochlearis (夏) の順に多くなったが, この他夏にBrachionus, Synchaeta, Polyarthra, Filinia, Diaphanosoma等がやゝ多くなった。
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