朝鮮総督府が、朝鮮総督府図書館を開館したのは、一九二五年四月である。朝鮮総督府図書館は、一九三五年一〇月に『文献報告』を創刊するまで、すなわち開館から一〇年間も、館報すら発行していなかった。そのため、一九三五年までの間、植民地権力側・あるいはそれと歩調を合わせる形で運営されていた図書館のあり方が窺えるのは雑誌『朝鮮之図書館』ぐらいである。これは、朝鮮の図書館職員有志による朝鮮図書館研究会の会誌である。本稿は『朝鮮之図書館』をてがかりとしながら、図書館というメディアを、支配権力やそれに寄り添う形で確保された空間だけに限定するのではなく、その空間への侵入が許されない「モノ」が、植民地を生きる人々の読書経験にいかに刻まれていくのか、その過程に展開される様々な立場の人々による協力・競合・せめぎ合いの問題に注目したものである。
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