Ⅰ はじめに
歴史時代の気候変動の中でも,小氷期前期以前については不明な点が多く,また中世温暖期から小氷期への移行期も判然としない。これは資料上の制約によることが多いが,特定地域のみならずさらに広域の変動との関係を明らかにするためにも,とくに16世紀以前の変動の復元を進めることが必要である。
Ⅱ 資料と方法
この期間の気候変動の復元の資料として,年輪,諏訪湖の御神渡,桜花宴,初終雪日などが代表的である。資料を,時間的分解能からA:季節/年,B:日/月に分け,空間スケールから①地点/局地,②:総観規模に分けると,多くのものは積算的(A)で特定地域(①)の資料にとどまる。これよりさらに空間的には拡大し,時間的には精度を高める必要がある。ここでは文書記録から抽出された日々の天候を,主として用いる。またそれを検証するための現在の天候記録として,気象庁による1980- 2010年の京都の天気概況(昼・夜)を用いる。ここでは冬季を前年の12月と1,2月とし,その雨および雪の日数から,降雪率を求めて,気候変動の指標とする。
Ⅲ 14-16世紀の冬季の気候変動
古文書から抽出された天候記録は,京都のほかに奈良,伊勢,鎌倉など各地のものがあるが,ここでは京都周辺の記録のみを用いる。また京都での降雪は11月から3月にかけてみられるが,冬型気圧配置下での降雨雪を対象とするよう,12・1・2月のものを用いる。降雪率は,各年の前後計11年間の平均として求める。この降雪率にはおよそ40年ほどの周期での変動がみられ,寒暖の変動が大きかったことが推定される。とくに14世紀から15世紀前半にかけて変動は大きい。一方15世紀後半から16世紀には,変動は大きくなく,降雪率は高めに,すなわち低温で推移したとみられる。
Ⅳ 降雪率の変動と気温
この降雪率と気温との関係を,現在の京都での観測記録で検討する。冬季3ヶ月の平均気温と降雪率の変動は,よく対応(R=-0.767)している。平均気温をy,降雪率をxとすると,最小二乗法によりy=-0.0544x+7.58で示される。これより14~16世紀の京都の冬季平均気温を求めると,対象期間にくらべて0.4~0.6℃低温となるが,対照期間は温暖化期であるため検討が必要である。
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