【研究の目的】 　食料は、人間の生命維持に欠くことの出来ないものであり、また健康で充実した生活の基礎として大切なものである。食料の安定供給の確保をすることは、社会の安定および国民の安心と健康の維持を図る上で不可欠である。ところが現在わが国の食料自給率は低下し、食料の約６割を海外に依存している状況である。食べ物が豊富にあふれている現在、国民一人一人が「食」についての理解や関心を深め食の現状を知り、自らの食生活を見つめ直すことも必要である。高校の家庭科では、食生活の学習に重点がおかれるものの、内容的には栄養・食品・調理などが中心で食料の生産・供給の問題はあまり深く取り上げられていないのが現状である。しかし日々の食生活を営む上で食料の生産・供給は見逃せない重要な内容である。 　このような状況の中、生徒一人ひとりが「食の生産」に関心をもち、日本の食の現状をふまえたうえで自分たちの食状況や食生活を少しでも改善し、行動する力を育てる契機として食料自給率を取り入れた食生活学習を展開することにした。 　先行研究では、食料自給率に関する研究論文は多いが食料自給率を扱った家庭科の実践は少なく、先行研究も視野に入れ、食料自給率を中心に据え食生産の課題を考える授業を実践し、それによってどのような食生活を捉える視点が育まれたかを明らかにすることを本研究の目的とした。 　また合わせて高等学校家庭科学習指導要領（現行・改訂）における食料自給率の記述内容および現在使用されている家庭科教科書２３冊の食料自給率に関する記述状況も比較分析した。 【実践内容】 　次のような授業を２時間で展開した。まず資料として名古屋の東海農政局で作成されたメニュー100種一覧・素材詳細を使用した。1時間目は自分の好きな夕食のメニューを選ばせ、その素材をワークシートに記入させ素材の自給率、主産国等から気付いた事柄を記述させ、コンビニ弁当の素材の行方を追った１２分ほどのビデオを視聴させた。2時間目は生徒を班ごとに分け自給率が６０％以下の素材を取り上げその主産国を確認し、白地図上にその国の生産された素材のシール（素材別に５つに色分け）を貼り、その後各自問題点を書き解決策を話し合わせ各自ワークシートに記述させた。 【分析方法】 　夕食のメニューの素材の自給率、主産国、白地図に貼ったシールの状況から気づいた事柄に関するワークシートの記述、夏休みに課したレポート内容、事後アンケートの内容を分析し、生徒の意識の変容を探った。 【結果】 1.夕食のメニューの素材の自給率や主産国を調べ、白地図にシールを貼った一連の授業で記述させたワークシートからは、日本の食料自給率が低いこと、アメリカや中国などからの輸入に頼っていることを記述した生徒が多かった。また、食料自給率の低さを解決する方法として個人的な生活の仕方を振り返る生徒が多かったが、社会組織に目を向ける視点も生まれていた。 2.夏休みのレポートのテーマや内容からは、自給率に限らず農業の在り方に関心を広げる生徒もいた。 3.事後アンケートでは、この授業を通じて自給率に関心が高まったこと、特に自給率という言葉も意味も知っている生徒の方が知らない生徒より、考えを深め自給率を意識化できる傾向にあった。 4.改訂された高等学校家庭科学習指導要領には、食料自給率が明記されるようになったが現行の教科書すべてにすでに「食料自給率」が取り上げられており、新たに注目される題材であることが明らかとなった。　　　

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