【目的】膝伸展位で踵骨が床面から浮く強度尖足や患側下肢の屈曲パターンにて強度尖足を伴ったCase、下腿の後方倒れによる尖足性反張膝など、片麻痺の尖足はいくつかのパターンに分類できる。これに対し保存的治療として一般的に短下肢装具矯正法がある。我々は逆に足関節を過度に矯正せず底屈位でheel補高を行い床面に足底を接地させ歩行立脚期に閉じた力学的連鎖を形成する手法、いわゆる足関節底屈位荷重歩行訓練を行い、良好な結果を得たので報告する。
【対象】Case1:63歳、男性、脳出血、股・膝屈曲位に強度尖足、下肢が床に着かない。前院でKAFOを処方。当院入院時はAFO。内反尖足で装具から踵骨が浮いた状態で20m近位監視歩行。Case2:固縮・痙性で強度尖足・床に踵が着かない爪先立ち尖足。膝は0度
棒足
・体幹過度前傾、歩行は2~3m歩くと筋緊張異常で尖足が極度に増し歩行困難。Case3:下腿前傾角(Shank to Vertical Angle:SVA)が後方に倒れる、所謂、尖足性反張膝。AFO後方制限で矯正するも、あぶみ固定部が破損、矯正にはKAFOが必要と考えられる。
【説明と同意】今回、報告する全3例については、本下肢装具療法に対する費用と歩行訓練内容、歩行量、転倒リスク、訓練期間、ビデオ撮影、学会発表などを患者、家族に説明し同意を得ている。
【方法】Case1:C.C.AD.Joint足継手にて、1/2矯正角度設定、残りの尖足踵部にはheel補高と同時に膝伸展位固定装具(商品名:アルケア・ニーブレース)そして患側heel高に対して健側補高を行い左右の脚長差を整え、膝伸展位、足関節底屈位荷重歩行訓練。荷重歩行の安定と尖足の改善に伴い患側heelは高さを減じ、足継手もそれに合わせる。Case2:膝関節は
棒足
の伸展パターン優位の強度尖足に対し、C.C.AD.Joint足継手にて1/2矯正、残りの尖足踵部にheel補高4.5cmにて尖足足底部を床面に接地closedさせる。同時に健側補高によって左右の脚長差を整える。また、
棒足
膝はC.C.AD.Joint膝継手により5~10度屈曲位に制御する。Case3:下腿30度後方倒れに対し装具足関節は底屈5度の継手なし固定(ギプスシャーレーのように後ろ半分で覆ったプラスチック装具のデザイン)、我々はこれを足関節の3面固定、または足部の3面固定と呼んでいる。さらに、装具足関節継手なし底屈5度固定に対し、2cmのheel補高を加え床面に対し、下腿SVAを垂直とする。同時に健側2.5cm補高にて左右脚長差を整える。
【結果】Case1:膝伸展位固定装具は10日間の使用で除去し、自己筋力による膝伸展支持力が得られた。1ヶ月の歩行訓練にて患側4cm heelは3cmに減、2ヶ月で2cmとなり歩行距離も20mが200m、1日総歩行距離1000mとなり院内自立した。Case2:踵の浮く強度尖足に対しheel補高を行った結果、Set up時に足は床面にclosedされ、踵骨部に荷重が可能となり体幹前傾が完全伸展となった。3ヶ月の歩行訓練の結果2~3mの歩行が屋外近位監視、連続歩行距離は400mとなった。また、30m位であれば裸足歩行可能となった。Case3:尖足性反張膝30度に対し前述した足継手なしの固定と膝C.C.AD.Joint継手付P.KAFOを装着した結果、反張膝はほぼ0度に矯正することが出来、院内自立歩行に至った。
【考察】片麻痺の尖足は筋緊張異常により発生する尖足偏位と偏位が長期化して尖足変形、さらに反張膝変形へと移行する。これら尖足に対し、保存的治療法として手技的や装具療法が行われているが効果的なアプローチは今だ未確立である。また、客観的治療手段として経皮的神経ブロックやアキレス腱延長といった治療手段もあるが、全国すべての病院に理解あるリハ医が在籍する訳ではない。これらの尖足(問題)に対し、我々は補高調節靴とC.C.AD継手付下肢装具を用い、安定した足底接地と患側荷重歩行訓練を行っている。本P.KAFO療法の考え方は、無理な背屈矯正はせず、膝を制御・安定させ、更に左右下肢の補高調節によって骨盤水平という1次的に介入により、瞬時に骨盤コントロールを可能とする。足・膝の継手角度や補高量は歩行のFacilitation時期に応じて簡単に調整を加え、減じることが可能である。以上が、下肢装具類の力学的原理を用いた尖足・内反足に対する理学療法と考える。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中ガイドライン2004では内半尖足に対する短下肢装具は有用、グレードBに位置づけ推奨しているが、装具処方を行う上でまず重要なのはその使用目的である。歩行の自立を主とするのか、歩容の改善や歩き易さの追及なのかにより全く別次元の考え方をしなければならない。そこを明確にし、病態の分析や歩行能力に応じた装具類の処方が合致してはじめてエビデンス確立の一歩を踏み出したことになる。
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